バンクーバーオリンピックのロゴマーク・イヌクシュクの本当の意味とは?
2010年に開催された、バンクーバー冬季オリンピックのロゴマークだったデザインのモチーフの元になったものは、
『イヌクシュク(Inukshuk/Inuksuk )』
と呼ばれています。
イヌクシュクは、カナダの先住民族・イヌイットの人たちが最初に作ったとされ、
石や岩を積上げた人間が両腕を伸ばした様な形をした石像で、カナダ中に今も点在しています。
現代では、
『友好と歓迎・平和の象徴』
として、広島県広島市にも寄贈されているイヌクシュク。
でも、なぜ古代イヌイットの人たちは、そんな大きな石像を最初に作ったのでしょうか。
石にはパワーがあると言われていますが、その本当の目的や意味とは…?
イヌクシュク(inukshuk)とは
イヌクシュクは、イヌイットの人たちが住むカナダの北部・ヌナブト準州で、今でも100体近く残っている石像です。
数千年以上前の、古代イヌイット文化にその起源があると言われています。
イヌク(inuk)というのは、「人間」という意味。
イヌクシュク(inukshuk)という言葉は、そこから派生して、
「人間の機能を代行するもの、人のような役割を持つもの」
を意味します。
イヌイットの人たちにとってのイヌクシュク
北極の寒さが厳しい環境で暮らすイヌイットの人たちにとって、
「ヒトとヒトとのコミュニケーションの伝達を助けたり、日常生活のためのランドマーク」
という目的で造られたイヌクシュク。
具体的にどのような機能があったかというと、
- 狩猟のときにイヌクシュクの石の小窓から覗いて獲物を狙う
- 交通の方角を示す「道しるべ」の役割をするもの
- 釣り場のポイントを示す目印
- 船を停泊させるときの目印
- 食糧貯蔵地の目印
など、生活する上で実用的な役割がありました。
広大な大地を狩猟をしながら移動し、伝統的な方法で生計を立て生き延びるための、
“生活を助けるヘルパー役・情報伝達役“
として、いわば家族の一員ような存在だったと言えます。
実用的に使われる以外にも、
- 土地にやって来た人を歓迎するためのシンボル
- 未開の極地で生き延びた祖先を崇拝するためのシンボル
として、イヌクシュクそのものを神聖な象徴として大切に扱われてきました。
イヌクシュクの大きさや形
イヌクシュクといえば、頭・腕・足に見える『人型』というイメージがありますが、それだけではありません。
大きな石を一本の柱のように積み上げる様式や、薄い石を積み重ねたもの、高さは1mから大きいものだと5m以上になるものもあり、
それぞれに用途や意味が異なると言われています。
photo by canadianencyclopedia.ca
現代のイヌクシュクの意味
現代のイヌクシュクは、『イヌイット文化のシンボル』として扱われていて、カナダのヌナブト準州を示す旗や紋章にも描かれています。
バンクーバー冬季オリンピックの公式エンブレムに採用
イヌクシュク(inukshuk)の中でも、特に人間のような形をしたものについては、
『カナダという国家全体の象徴』
として、2010年におこなわれたバンクーバー冬季オリンピックの公式エンブレム
『イラナーク(Ilanaaq/イヌイット語で友達という意味)』
のモチーフにもなりました。
冬季オリンピックロゴ(21/23)/2010 冬 バンクーバー(カナダ)
イヌクシュクというイヌイットのオブジェがモチーフ。時代を反映してます。このフォントも普通のサンセリフではなくウェイトに表情があります pic.twitter.com/RrYHPnuuFq— デザインログ (@enjoydesignlog) 2014年2月14日
イヌクシュクは、『旅の道しるべ』『その土地に来た人を歓迎する』などの意味に加えて
『友好と歓迎・平和の象徴』
という相手国へ敬意を表すものとして
- オーストラリアのブリスベン
- メキシコのモンテレイ
- ノルウェーのオスロ
- アメリカ合衆国のワシントンD.C.
- グアテマラのグアテマラシティ
- 日本の広島県広島市
など世界中に、カナダ政府から寄贈されたものが建てられています。
石を人型のように積み上げた構造物、イヌクシュクは、
バンクーバーのイングリッシュベイやウィスラー山頂・ケベックをはじめ、カナダ各地で目にすることができます。
まとめ
イヌクシュクは、接着もしていなければ装飾や彫刻も無く、もちろん人の顔が描かれているわけでもない、シンプルにゴツゴツの石を積み上げただけのもの。
でも、なぜだろう。
その前に立ってじっと空と一緒に眺めていると、不思議な魅力があって何か語りかけてくるように感じます。
- ようこそ、カナダへ
- あなたをここで待っていたんだよ
- これから一緒に正しい道に進んでいこう
- ずっと見守っているよ
その役割は「道しるべ」と言われるように、正しい旅のルート・人生の方向を、大きく伸ばした両手で包み込みながら導いてくれているような気持になります。
何千年も前から同じ場所に立ち続け、人々の生活を助けてきたイヌクシュクはどんな歴史を見てきたのでしょう。
猛吹雪の中で方向を見失い、意識が無くなりそうになった時、
先人達が残してくれた道の方向を示すイヌクシュクが、はるか遠くに見えた時の安堵感。
イヌイットの人たちにとってイヌクシュクは、命と命をつなぐ知恵そのもの、生と死を結びつけるような存在だったのかもしれませんね。
ひとつとして同じカタチはなく、それぞれが違う格好や表情をしているイヌクシュク。
あなたもイヌクシュクに出会ったら、ぜひじっと静かに眺めてみてはいかがでしょうか。
人生の道しるべとなる、何かを教えてくれるかもしれません。